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 江戸時代の鉄砲鍛冶の「本物のものづくり空間」を体感

鉄炮鍛冶屋敷 3月3日開館

3月にオープンする鉄炮鍛冶屋敷3月にオープンする鉄炮鍛冶屋敷

 「鉄炮鍛冶屋敷(堺市立町家歴史館井上関右衛門家住宅)」が、3月3日㈰午後1時にグランドオープンする。
 井上関右衛門家住宅は、江戸時代の鉄炮鍛冶の作業場兼住居として貴重なため、平成16年に主屋が堺市の有形文化財(建造物)に指定された。
 平成27年からの4年間にわたる関西大学と堺市との共同研究調査では、2万点を超える古文書から日本の鉄炮生産の歴史を書き換える大きな発見となったことだけでなく、屋敷絵図等から屋敷地や建物の改造過程等が明らかになった。その結果、平成30年には、敷地内の座敷棟、道具蔵、俵倉、附属棟、土地(塀含む)も、堺市指定有形文化財(建造物)に追加指定された。
 その後、貴重な文化財を後世に引き継ぎ保存活用してほしいとの所有者の意向のもと、同年3月に、主屋と座敷棟の寄贈を受け、令和2年から文化財建造物としての保存修理工事を進めてきた。
 国内で唯一残る江戸時代の鉄炮鍛冶屋敷であり、日本の鉄炮生産の歴史を塗り替えた古文書等の資料をはじめとした貴重な文化財を後世に継承・活用し、堺の類いまれな歴史を形づくる「鉄のものづくり」の歴史ストーリーの中核を成す施設として、市内外問わず多くの方々にご来館いただき、堺の魅力の一端を発信していく。


江戸時代から伝わる
「ものづくり」の展示

 鉄炮鍛冶の職人としてだけでなく、文化人としての側面を持っていた井上関右衛門の屋敷内には、複数の庭や茶室等も備わっており、ゆっくりと空間を楽しむことができる。
 古墳時代から現代にいたるまで、堺の地で綿々と続いてきた「鉄のものづくり」の技術を後世に伝える魅力あふれる施設として整備を行った。堺の鉄炮鍛冶の歴史や、井上関右衛門家の歴史に関する展示を行う。

「鉄炮」の「炮」の字について

 古墳時代から現代まで続く「鉄のものづくり」の技術の象徴として「火を起こして鉄を鍛える」イメージを持つ火扁の「鉄炮」の字を採用している。なお、鉄炮鍛冶屋敷に伝わる江戸時代の古文書の大部分では、火縄銃を指す言葉として火扁の「鉄炮」が使われている。
■開館時間
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
■入館料
500円・20人以上の団体は400円
中学生以下、市内在住の65歳以上の方、障害のある方とその介護者は無料
町家歴史館山口家住宅・清学院との共通入館券あり
■所在地
堺区北旅籠町
西1丁3―22

■アクセス
阪堺電気軌道阪堺線「高須神社」停留場より西へ300メートル
南海本線「七道」駅より東へ300メートル
※駐車場はないため、公共交通機関を利用

歴史を身近に感じる館内歴史を身近に感じる館内

社説

台湾総統選から見えるもの

海上自衛隊第41代呉地方総監
金沢工業大学虎ノ門大学院 教授

伊 藤 俊 幸

 選挙イヤーの二〇二四年、最初の台湾総統選挙が一月十三日に行われ、与党・民進党の頼清徳氏が当選しました。一九九六年に総統の直接選挙が始まって以来初めて、同じ政党が三期続けて政権を担うことになります。
 投票結果は、民進党・頼氏が五五八万六〇一九票、国民党・侯友宜氏が四六七万一〇二一票、民衆党・柯文哲氏が三六九万四六六票で、もし野党連携が成功していたら、頼氏は惨敗していました。得票数自体も前回蔡英文氏が獲得した八〇〇万票強を大きく下回り、民進党政権の長期化に対する一定の批判があったといえましょう。
 このことは同時に行われた日本の議会に相当する立法院の選挙結果にも表れています。定員一一三議席のうち、国民党が五二議席(十五増)、民進党が五一議席(十一減)と、与野党が逆転したのです。
 既存の二大政党だけでは、どちらも過半数を獲得できず、八議席(三増)をとった民衆党が、キャスティング・ボードを握ることになりました。頼政権は立法院との「与野党ねじれ」により厳しい政権運営を強いられることになります。
 この結果を受け中国は、「民進党が民意の主流を代表できないことが明らかになった」とけん制しました。選挙期間中も中国は、「1つの中国」を認めない民進党を強く非難し、頼氏を「トラブルメーカー」と呼んで警戒感をあらわにしてきました。
 その一方で、国民党による政権交代を図ろうとしました。中国が輸入禁止にしてきた台湾養殖の高級魚ハタを、「国民党から要望を受けた」として、突如昨年十二月に輸入を再開し、国民党の顔を立てたのです。
 しかし頼氏と国民党・侯氏の得票数にあらわれているように、中国の政治的な意図は、台湾の有権者には見透かされていたといえましょう。
 今回の選挙のキーポイントは、第三党の民衆党の台頭でした。基本的政策は民進党に近いといわれていますが、台湾国内では物価や不動産価格の高騰、若者の低賃金に対する不満が根強いことから、若者の圧倒的な支持を背景に勢力を伸ばしました。
 頼氏は五月に総統に就任します。就任演説で中国との関係について、どのような考え方を示すのか。中国がどのような反応をするのか。「与野党ねじれ」だった陳水平政権では、米国の武器購入費の防衛予算が、野党・国民党によって、たびたび否決されました。
 台湾、東アジア情勢は、今年も厳しい状況が続きそうです。