遊子遊目 5

 「真夜中のスーパーマン」

 手に入れたコンピューターは、ぼくのシドニーの生活で欠かせないものとなった。そう、アレシュは正しかった。論文を各章ごとに整理し、好きな時に自由に訂正や加筆ができる。なんとも便利な機械だ。ぼくが使う機能は、研究に必要な新聞記事や雑誌記事を検索するインターネット、そしてタイピングのみで、使用するのにたいして苦労はなかった。
 しかし、ある夜のこと、ぼくはコンピューターの画面下にデジタルの時間表示があるのに気づいた。丁度、論文のその日の分を書き終えようかという午前2時を過ぎたところ。しかし、その時計は大きく狂った時を示している。その時、なぜか時間を正確に直そう、という気持ちがぼくの心に湧いてきた。
 普段なら、自分の分かるものにしか手をつけないのに、その夜ばかりは何を血迷ったか「これくらいなら、できるぞ」というから回りのやる気が、ぼくを支配していたようだ。ところが、しばらくクリックを繰り返しているうちに、突然、画面全体に大きな(正確に言うならば、巨大な)まん丸のアナログの時計が現われた。その時のぼくの驚きを何と表現したらいいだろう。「ああ、こんなことするんじゃなかった」と泣きたいくらいの後悔。
 本当は時計などどうでもいいが、ここまで書き上げてきた論文が何かの間違いで消去でもされたら…不安が心に満ちる。アレシュ、この苦境を好転させることができるのは、彼しかいない。しかし、時は既に午前3時にもなろうとしている。いくら親しい友だちでも、そんな時刻に電話できるものではない。
 とは言うものの、ぼくはアレシュがどんな生活を送っているか知っていた。実は、彼は少し前に、アルバイトで貯めた金で新しいコンピューターを購入し、下宿に電話線を2本引き、明け方までインターネットに没頭していたのだ。まあ、2回呼び出して返答がなければ電話を切るつもりで、ぼくはアレシュに電話をした。
 「プルル〜ン」という1回目の呼び出し音が終わるか終わらぬうちに、アレシュはいつもと(つまり昼間と)変わらぬ声で「ハロー」と電話に出た。「オ〜、アレシュ!」とぼくは叫び、地獄で仏に会ったような気持ちで、彼に助けを求めた。アレシュは、今からすぐにぼくのアパートに来てくれると言う。何という優しさだろうか。ぼくは、「真夜中にアレシュ」という諺でも作りたい気持ちになった。
 半時間の後、アレシュはぼくのコンピューターの前に座り、あっという間に巨大な時計を消し、正確な時間をセットしてくれた。「ありがとう、ありがとう」と何度も礼を言うぼくに「構わないよ、いつでも呼んでくれ」とさわやかに言うと、明け方のシドニーの街を走り去っていった。その後ろ姿を見ながら、ぼくは映画のスーパーマンを思ってしまったのだ。
 このように世話になっていながら、ぼくは相変わらずコンピューターに没頭するアレシュに批判的で、「川に恋人とコンピューターが同時に流されたらば、どちらを先に助けるか?」などと子供じみた質問をして彼を困らせていた。その質問に「う〜ん」とうなっているアレシュに向かい、ぼくは「だから振られるんだよ」と容赦ない言葉を投げた。アレシュはその時、失恋したすぐ後だった。
 しかしながら、ぼくはアレシュがコンピューターを調節してくれた時など、何もお返しができないので、アルバイト料をコンピューターにつぎ込んで満足な食事をしていないアレシュのために、料理を作りご馳走したものだった。彼もそれを楽しみにしていた、とぼくは勝手に解釈している。
 アレシュとは、他の共通の友人とピクニックに行ったり、映画を観たりとコンピューター以外の付き合いもあったのだが、どうしてもコンピューターのことが強烈な思い出として残っている。そんな彼も、今では可愛い奥さんをもらって幸せに暮らしている。
 シドニーでの学生時代に大いに助けてくれた友だちのアレシュ。今でも「元気?」というメールに返事をすることはないのに、「このコンピューターの機能は?」という質問には即刻返信を送ってくる。アレシュは、あの頃と何も変わることがない。そしてぼくの素晴らしい友だちの1人だ。

インドネシア ナショナル大学客員教授(博士)
加藤 久典


堺市なぎなた連盟が会員を募集

 薙刀のひとふりひとふりに大きな発声と気合いを込め稽古しています。白い胴着と紺袴に身を通すと、日常とは違った高揚感と緊張感が味わえると好評です。
初芝体育館スポーツ教室(水曜・1期5回)
大浜体育館なぎなた教室(土曜・月3回)
綾ノ町青少年センター(日曜・随時)

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お問い合せ
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(担当 中村)


VIEW21
コンサート

『蝶々夫人』
日時
 8月12日
 午後12時10分〜
場所
 堺市役所高層館21階 展望ロビー
出演
 横山恵子(蝶々夫人)、ヤンコ・シナディノヴィチ(ピンカートン)、石坂宏(ピアノ)
曲目
 「二重唱とアリア」
入場無料
主催
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問い合わせ
 堺市国際文化部 
 TEL 228−7143


佐々木和徳 個展

 自閉症という障害を持ちながら色彩豊かな絵画を、独自の力強いタッチで描き続ける佐々木和徳さんの個展が下記のとおり開催されている。
ギャラリー御堂筋(地下鉄難波駅25番出口北へすぐ)8月3日(水)まで。
(11時〜19時・最終日は17時まで)

千利休物語 
花は野にあるように
茶山台小で上演

 堺高石青年会議所(下川好隆理事長)の50周年記念事業のひとつとして、一般公募などで集まった市民が参加した演劇「千利休物語 花は野にあるように」(難波利三監修)が堺市立茶山台小学校(茶山台2丁・井澤恒晴校長・児童340人)で上演された。=写真=
 豊臣秀吉の頃、同小付近には茶の木が植えられ美しい松林が広がっていた。ここで月見や花見の宴が行われ野点を楽しんだことから現代の地名「茶山台」となったといわれている。このことから今回、同校が青年会議所に依頼した。
 この劇は、堺出身で茶の湯を大成した千利休の生き方を通して人の心の大切さと、堺の古き良き町衆のはつらつとした姿をえがいたもの。
 同校の土曜参観のなかで上演され、児童、PTA、自冶会、老人会、また特別養護老人ホーム「百寿壮」の利用者が楽しんだ。
 土師純一同小PTA会長は「子どもたちには、自分のまちを見直し、心意気を持った人になってほしい。」と劇後、熱いメッセージを送った。


堺市立青少年センター
8月の行事

青少年センター発表会
 同センター主催事業(ヒップホップ・演劇講座)受講生が夏休み中に練習した成果を発表する。センター登録団体・遊演工房による寸劇も同時開催。
 8月28日 13時〜15時
 雨天決行。入場無料。
 直接会場へ

場 所
 堺市柳之町西1丁3―19
 TEL 229―5120
 FAX 228―5244
休館日 8月1・8・15・22・29日

税金豆知識


“残業食事代の課税!!”

 不景気のこの世の中、資金繰等で苦労し人事でリストラする会社も少なくない昨今、このような会社において残った社員の仕事量は当然負担増となり、どうしても残業時間が増加する傾向にある。
 そこで残業をしている社員に対して会社が夜食を現物支給した場合に、その残業食事代については通常において「一般的な額」であれば、よく心配される「給与課税」の対象とはならないのである。が、しかし、食事代として現金を支給した場合は「給与課税」の対象となるのでとまどいの感がある。
 「給与課税」の対象とならない夜食は現物支給に限定され、現金支給した場合は「給与課税」の対象とされるからくれぐれもご注意を。
 尚、交代制のある会社で夜間勤務する社員に夜食を提供する場合にも注意する必要がある。どういうことかと云えば、夜間の勤務時間であってもそれは「通常の勤務時間」となるので「残業時間」とはならず、夜食は「現物給与」として課税する必要がある。但し非課税枠もあるので……。

税理士 大西 正芳