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『鯨踊(まつ)り展』をきっかけに
全国の鯨踊りを堺で


当時の堺の鯨踊り

 現在、堺市では各地域ごとにまちの活性化への取組みが活発に行われている。菅原神社の天神楽座、開口神社の大小路界隈「夢」倶楽部・「南蛮ガラクタ市」、旧堺港観光市場など様々に取り組まれている。
 また、45年ぶりに住吉大社の神輿の大和川渡御が千人行列規模で行われた。「祭り」が地域活性化の源となっている。

溢れる堺衆の活力鯨踊り

 魚の形をした帽子をかぶり、揃いの浴衣で全長27メートルの大鯨の模型を引き歩く。出島の海岸を出発、住吉神社まで。
 本宮前の反橋を渡るとき、鯨は潮を吹き(内部に四升樽を据えて水鉄砲で)、続いて4隻の船が順次、鯨を追って橋上に上がり、踊りながら本宮に参拝する。  「堺住吉、3社か4社、表3社で裏4社、4社の前でと扇をひろめ、おおきめでたや、末はんじょう、出島浜にて鯨がとれて、今はうれしや宮参り」
と唄って踊りを奉納した。
 翌朝出発し、堺市内をねり歩き、出島に帰る。
 堺の鯨踊りは、古くは明治13年頃、同42年、昭和6年に挙行され、その後、昭和29年に復活。好評を博し見物客で道路を埋め尽くした。第1回の堺まつり大パレードにも鯨のフロートが参加した。
 このような鯨踊りが行われるほど堺と鯨の縁は深い。元和元年、木津川の河口付近に鯨が現れ、大騒ぎになり、やっとのことでこの鯨を捕らえた。肉は塩漬けにし徳川家へ献上したといわれている。
 全国でも各地で鯨まつりが挙行されており、近畿ではよく知られている「太地浦勇魚祭り」、「三輪崎の鯨踊り」、また全国では「きりたっぷ浜太鼓」(北海道)、「牡鹿町鯨まつり」(宮城県)、「弁財天祭り」(長崎県)、など、現在も引き続き実施されている祭りも数多くある。

鯨の縁で太地と堺の交流を
 このような堺の歴史的に意義のある鯨踊りを紹介する「鯨踊り展」が7月22日から31日まで、堺市役所本館1階エントランスホールで開催された。
(主催・湊駅前東通り商店会 協賛・堺市、和歌山県太地町、和歌山町立くじら博物館、堺市出島漁業協同組合、出島漁港とれとれ市、湊西自冶連合協議会、轄艫Wャーナル)
 オープニングセレモニーには、三軒一高和歌山県太地町長をはじめ、木原敬介堺市長、高田利夫堺市漁業協同組合連合会会長、京柄楠一堺市出島漁業協同組合長、久保照男湊西自冶連合協議会会長、鎌苅一身湊駅前東通り商店会会長などが出席し、テープカットを行った。
 この写真展は、当時の盛大な鯨踊りの模様を記録したもの、鯨の模型の制作風景など歴史的に貴重な写真が展示。 鯨のまち§a歌山県太地町の関係者も多数の資料を積極的に提供した。同時に昭和初期の湊駅周辺の人々の生活を紹介した写真も展示された。さらに、鯨の模型のミニチュア、太地町立くじらの博物館所有の捕鯨船の模型が展示され訪れた人々は興味深げに見入っていた。
 三軒一高太地町長は「このような日本の伝統的な祭りを後世に伝えていくことが大切。また、鯨を通して昔から関係のある堺市と、今回の写真展をきっかけに交流が深まることを願っています。」と話す。

観光行事で堺の活性化を
 鈴木貴典堺市観光部長は「堺には誇れる歴史的な資産が多くあります。堺固有の魅力をもっとうまく市内外に伝え、人を呼び込む方法の充実を図ることが重要であると考えます。」と語る。
 加藤均堺市議会議員は「堺の鯨踊りの復活だけにとらわれず、全国の鯨踊りを堺に集まってもらい大イベントを行ったら面白いのではないか。」また「このような祭り事業はあくまでも市民が主体となり行政がそれをサポートするという関係が本来の望ましい形であり、おたがいの役割分担を明確にすることが大切。」と話す。


鯨踊り展でテープカットをする木原堺市長(中央)、三軒太地町長(右から3人目)ら


社 説

人口減少時代へ対応
−地方自治体の急務−

 わが国の人口問題は極めて重大な局面を迎えており、急速な老齢化に加えて、人口減少時代に突入しようとしている。すでに地域的には人口減少が進行しており、平成16年10月1日の推計人口では、全国47都道府県のうち、前年より人口が減少したのは35道府県に及んでいる。
 こうした人口減少が各方面にさまざまな影響を及ぼしていることは明らかで、全国的にも、また各行政レベルにおいても、その対策が急がれている。
 たまたま、「産経新聞」連載されている「待ったなし 人口減少時代」という特集記事は興味深い。とくに、7月12日から連載の「第5部『街の盛衰』自治体の挑戦」は注目に価する。
 これには、都道府県や市町村で行われて来た人口減少対策の具体的な事例について報告している。その成功例としては、知事も「営業マン」として先頭に立って企業誘致政策を積極的に推進した熊本県の事例が報告されている。
 また、安価な分譲地整備に止まらず、子育て支援策を中心とする生活環境の充実に努めることによって、人口減に歯止めをかけることの出来た、兵庫県淡路島西海岸の五色町の定住化促進策の事例は、大いに注目される。
 しかしながら、こうした成功した事例は必ずしも多くはない。関係者の懸命な努力にもかかわらず、予期した成果を充分に挙げていない事例も少くない。こうした対策の展開は決して容易なものではなく、多くの問題が残されていることを物語っている。
 企業誘致にしても、それをもくろんでいる地域は少くなく、したがって競争も激しい。企業側との条件の整合がよほど十分になされない限り、成功はおぼつかない。
 たしかに、企業誘致は「地元企業への波及効果が期待出来るし、若者を地元に吸収する基盤、受け皿になる」ことは否定出来ない。その意味で、地域の活性化のために大いに促進するべきであり、今後共努力が傾けらるべきことはいうまでもない。
 地域への定住化の促進にしても、地方自治体にとっては極めて重要な方策の一つである。しかし、これとても決して単純なものではなく、単なる分譲地の造成だけでは不十分である。五色町の事例に鑑みるまでもなく、これまた、さまざまの条件の整備が不可欠である。とくに、子育て支援策を始めとする生活環境の充実を図ることが大きな課題である。
 こうした点で、地方自治体はそれぞれの特性にきめ細く対応した政策を展開し、意欲的な挑戦を試みることが求められる。いい意味での競争を続け、一層積極的な努力を傾けることが期待されるのである。
 しかしながら、一歩翻って考えてみるも、急速な少子化、老齢化、あるいは地方の過疎化の進展は、単なる地域社会の問題に止まらない。むしろ、わが国が直面する緊急な根本的な課題である。その意味では、国も地方自治体も総力を挙げて取り組む必要のあることつけ加えておきたい。

生田  正輝
(慶應義塾大学名誉教授)